リーマン多様体の上にはラプラシアンと呼ばれる微分作用素が定義され、それが生成する半群の積分核である熱核が存在する。ラプラシアンあるいは熱核などの解析的な性質と曲率などの幾何的な性質との間には密接な関係があり、現在に至るまで多くの研究がなされてきた。私は加須栄篤氏(大阪大学理学部)との共同研究において、コンパクト・リーマン多様体の間に、熱核を使って、新たに距離(スペクトル距離と名付けた)を定義し、その基本的な性質を調べてきた。リッチ曲率が下から一様に押さえられ、直径が上から一様に押さえられたη次元リーマン多様体の族においては、スペクトル距離による位相は、深谷氏が定義した測度付きハウスドルフ位相と同値になるが、リッチ曲率が下から押さえられるという仮定をはずした場合、両者の関係は不明である。そこで、リッチ曲率の下限の仮定をはずして、多様体収束の例をこのところ考察しているわけである。特に、固定したコンパクト・リーマン多様体の上のS^1主束上に接続計量の列を考えて、そのスペクトル距離に関する極限を現在考察している。今のところ、次のような例が得られている: (1)底空間の有限個の点の上のファイバーが一点につぶれて行く例 (2)底空間の有限個の点の上のファイバーが何重かにつぶれる例 これらはフーリエ級数展開を2重に使って調べているため、方程式の解の評価が難しく、他の考察中の例については、まだ、解答を得ていない。今後この考察を進めたい。
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