本年度の研究実施計画では、種数1の双曲型結び目のデーン手術によるレンズ空間の生成に関する研究を行うこととした。種数1の結び目のデーン手術によって、位数2の基本群をもつレンズ空間は得られないこと、およびクラインボトルを含むレンズ空間は得られないことをすでに証明している。いずれの場合も、レンズ空間に含まれる向き付け不可能閉曲面を本質的に利用した結果である。レンズ空間は、2つのタイプに大別される。基本群の位数が偶数のものと奇数のものである。前者は、向き付け不可能閉曲面を許容するが、後者はそうではない。本年度の目標は、前者のタイプのレンズ空間は、種数1の双曲結び目のデーン手術によって得られないという予想を証明することであったが、この予想の完全な解決には至っていない。しかし、先に述べた結果を導く議論をさらに進めることにより、部分解決を得ることができた。1つは、レンズ空間が含む最小種数向き付け不可能閉曲面と、手術によってはりつけたソリッドトーラスは1度しか交われないこと、そして2つめは手術のスロープに関する上界を与えることができたことである。これにより、これまで知られていなかった無限に多くのレンズ空間について、種数1の双曲型結び目のデーン手術によっては得られないことが証明できた。 また、これらの議論の副産物として、今年度さらに2つの結果を得た。1つは、種数1の結び目のデーン手術によってクラインボトルを含む3次元多様体が生成されるのならば、その結び目はダブル型結び目でなければならないことである。これにより、クラインボトルの生成とレンズ空間の生成は両立できないことも証明できた。2つめとして、合成型結び目のデーン手術によってクラインボトルを含む3次元多様体が生成される場合、その合成型結び目は2-ケーブル型結び目2つの連結和でなければならないことを証明した。
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