本年度は、四元数ケーラー多様体上にて定義される反自己双対方程式に対するモジュライ空間の「中心」と「境界」に関する興味深い現象を発見することに成功した。主な成果は次の通りである。 1. 「次元簡約」および「運動量写像」なる概念を用いることにより、四元数射影空間上に存在する標準接続から導入される反自己双対接続から、複素グラスマン多様体上の反自己双対接続を導くことができることを示した。ここでの鍵となるのは、接続の構造群の還元を「次元簡約」において現れるヒッグス場を接続と可換なゲージ場と考えることにより説明することにある。この方法は、新たなベクトル束の構成法を与えることにもつながる。 2. 超ケーラー多様体の自己双対接続のホロノミー代数は、可換であることを示した。しかしながら四元数ケーラー多様体の自己双対接続とは異なり、その一意性は成立しないことを例をもって示した。 3. 「次元簡約」の定式化に伴い、四元数運動量写像に対するGalicki-Lawsonの公式の別証明を与えた。この観点からすれば、ケーラーおよび超ケーラー多様体上で定義される運動量写像と、四元数運動量写像を全く統一的に理解することが可能になる。 4. モジュライの「境界」はすでにベクトル束に対応するものではないが、ある特異点集合をもつ「特異ベクトル束」として理解できる。この特異点集合を、例外群G_2およびSO(7)を等長変換群としてもつ四元数対称空間上で決定することに成功した。どちらの場合においても特異点集合として現れるのは、四元数部分多様体であり、またそのポアンカレ双対はベクトル束の第2チャーン類である。
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