本研究の最終的な目標は、Yang-Baxter方程式のBelavin解として知られる楕円R行列を用いて、ソリッド・トーラス内に埋め込まれた絡み目の位相不変量を構成し、その性質について研究することにある。ここで、絡み目のソリッド・トーラス内への埋め込まれ方を特徴付けるために重要な鍵となるのが、楕円R行列とある種の交換関係を満たす、L-operatorと呼ばれる行列である。本研究は、この行列の基本的な性質を調査することがら始めた。そのための道具として、Bahanov-Stroganovが考察した6頂点模型のR行列とそれにそれに付随するL-operatorを用いた。 不変量構成のためには、Lーoperatorに対応させるべき幾何学的対象(ダイアグラム)をうまく選ばなければならないが、これを決定することができた。6頂点模型に付随するK行列は、量子群Uslのベクトル表現と関係しているため、これまでに得られていたものの拡張版となる不変量を構成することができた。更に、この不変量から抽出されるVassiliev型不変量は、その値をあるHOPf代数に持つことがわかった。近年、ソリッド・トーラス内の絡み目に絡む様々な結果が得られ始めている。例えば、(1)平面曲線やLegendrian絡み目との関係、(2)普遍不変量の構成、或いは(3)代数的背景についての研究、等々である。これらの研究との関連を調べておくことも我々の不変量の幾何学的意味を考察する上で今後重要になると思われる。上の場合、(1)については全く同様の議論が展開できることがわかった。(2)については、Gorynovの仕事と我々の不変量との関連を現在調査中である。 我々の不変量は、ダイアグラムに対する高さ関数を用いて構成されるが、この手法を基礎とする計算機実験により、2橋絡み目のHOMFLY多項式を明示的に表示する公式を発見することができた。この公式の詳細な分析と共に、更に一般の絡み目、及び他の多項式不変量への拡張についても引き続き調査している。
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