本研究では、互いに競争関係にある2種の生物個体群の挙動に対する2種の移動能力の影響を考察することを目的として、ロトカ・ヴォルテラ型の反応拡散方程式系の解の挙動を数学的に解析する。特に、2種の拡散効果を本質的に際立たせるために、2種の競争力を拮抗させて次の二つの問題を設定する。 1。2種が棲み分けて「縄張り争い」する場合に最後に勝つのはどちらの種か? 2。一方の種が他方よりも至る所で多いような初期分布から始めたら、必ず少ない方の種が絶滅するのか? 本年度は、これらの問題を手がける準備として、1に対しては、2種競争系と良く似た挙動を示すアレン・カーン方程式の解の内部遷移層の運動を解析し、2に対しては、主に数値計算によって状況を詳細に観察した。 アレン・カーン方程式は二つの安定な定数状態をもち、拡散係数を小さくするとこの二つの状態を狭い範囲でつなぐ内部遷移層を伴った解が現れる。この内部遷移層が競争系における2種の縄張りの境目に相当するものと考えて、内部遷移層の動き方と拡散効果の関係を拡散係数が一様でない場合まで込めて調べた。拡散係数を十分小さくした特異的な状況を漸近的に解析することにより、拡散係数の勾配と平均曲率に従って運動する曲面で内部遷移層を近似できることがわかった。さらに、この研究の副産物として、非一様な拡散係数をもつアレン・カーン方程式の全空間における安定な定常解として内部遷移層を伴うものを構成できた。一方、2の数値計算からは、初期に多い方の種が拡散の影響によって絶滅してしまうという逆転現象が起き得ることが示唆され、逆転が起きるような初期分布のタイプの見当がついてきた。次年度に向けてこの逆転現象を理論的に検証中である。
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