研究概要 |
完全WKB解析の基礎理論では、「変わり点とStokes曲線の幾何」、及び「Stokes曲線を越えた時に形式解が満たす接続公式」が基本的な役割を演じる。大域的な問題への応用を図るべく、本年度はまずPainleve方程式(P_J)(J=I,...,VI)に対するこうした基礎理論の改良に取り組み、次の成果を得た。(フランスのニ-ス大学で行われた研究集会でこれらの結果を発表した。) (1)単純変わり点での標準形を与える(P_I)について、その接続公式をガンマ函数を用いて完全に書き下すことに成功した。 (2)Painleve方程式のHamilton系としての構造を利用した、2つの自由パラメータを含む(P_J)の形式解の新しい構成法を発見した。 特に(2)の形式解の新しい構成法は、Hamilton系に対するBirkhoffの標準形ともに密接に関連し、多重スケール解析を用いた従来の方法と比べ代数解析的である。実際、この方法により、2つの自由パラメータを含む形式解の(通常の)確定特異点における挙動が明らかになった。 以上の改良を踏まえ、現在「変わり点とStokes曲線の幾何」の解析を重点的に行っており、(P_J)(J=III,V,VI)には通常より退化した確定特異点が必然的に現れること、またその退化した確定特異点から新しい種類のStokes曲線が流れ出すこと、さらにこの新しいStokes曲線の上では、モノドロミ-保存変形を通じて(P_J)に付随している線型方程式のStokes曲線についても新しいパターンの退化が起こっていること、等の興味深い現象が見い出されつつある。Painleve方程式の大域的な構造を記述する際にこれらの現象が持つ意味を明らかにすることが当面の課題であろう。
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