研究概要 |
非線型波動方程式の初期値問題の研究,特に小さな初期条件を持つ場合の古典解のlifespan(存在時間)についての研究を行った.未知関数をuとするとき,非線形項がuの導関数のみに依存する場合については,様々な研究により,状況は既にほぼ完全に明らかになっていると考えられる.逆に,非線形項がuのみに依存する場合にも,別の手法により状況は明らかになってきている.非線形項がuとその導関数の双方に依存する場合には先に挙げた二つの場合の手法をうまく統合する必要があり,困難を伴う.しかし,この場合にも空間の次元が2以外の場合は,ほぼ状況が明らかになったと思われる.本研究では,空間次元が2つの時の非線形項がu及びその導関数の双方に依存する場合を扱った.単に3次の非線形項を持つという仮定の下では,既にある意味で最適なlifespanの評価が知られているので結果を改善する余地はないといえる.しかし,これまでの結果を考えると,やや特殊な場合,より正確にはuのみからなる3次の項を非線形項が含まない場合には,解は一般の場合よりも長い時間まで古典解が存在するのでないかと推測される.実際,すでにuのみからなる3次の項と4次の項の双方が存在しない場合には一般の場合よりも遙かに長い時間まで解が存在することが知られている.本研究では,既に知られていた解の減衰評価を一般化することにより,3次の非線形項を持つが,uのみからなる3次の項を持たないという仮定の下で,4次以上の項については制限を一切置かない場合に,既知の結果よりも精密なIifespanの評価を得ることが出来た.しかし,ここで得た結果が最適なものであるかどうかについては疑問が残る.今後はこのことについて研究を深めていく必要があると思われる.
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