本研究では、量子統計多様体の研究を行い、以下の結論を得た。 1.任意の有限ランクで特徴づけられる密度作用素の族に、密度作用素の最小端点分解をファイバーとし、対称対数微分が定める部分空間を水平部分空間とする主ファイバー束構造を導入し、その幾何構造を論じた。特に、この幾何構造はUhlmannがBerryの位相を密度作用素に拡張する目的で導入した主ファイバー束構造の一般化となっており、Uhlmannの定式化では成功しなかった物理的解釈を与える可能性が出てきたが、完全な解答にはまだ至っていない。 2.底空間のSLD-双対幾何構造と上記主ファイバー束構造との関係を論じた。特に、底空間の指数型アファイン接続に関する捩率形式と主ファイバー束の曲率形式の関係を明らかにすると共に、量子推定理論との関係も論じた。そして、2準位量子系における量子指数型分布族の水平持ち上げを用いることにより、純粋状態極限でBerryの位相に一致するホロノミーの具体例を構成した。 3.量子系の最も一般的な力学変化を表現する完全正写像の解析において、1で導入した幾何構造と同様の幾何構造の導入が極めて有用であることを論じた。特に、量子コンピュータの研究と共に発展している量子誤り訂正符号が、完全正写像を用いた枠組で定式化できること、従来知られていた量子誤り訂正可能であるための必要十分条件が、何らの変更もせずに完全正写像の枠組に拡張できること、などを示した。
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