数学や物理の様々な場面においてWiener空間上の汎関数積分の漸近挙動を考える間題が自然に現われる。本研究ではそのうち確率振動積分と呼ばれる被積分汎関数が振動する場合について関係する問題を多角的な方面から取り組むことを課題としている。特に本研究では最も基本的で応用の多い、磁場のあるSchrodinger作用素に関係した確率振動積分を主な対象としている。本年得られた知見の主なものはGauss型確率場を磁場としてもつSchrodinger作用素に対するLifschitz型の挙動の存在である。即ちこの作用素の状態密度関数がスペクトルの下端から指数的に立ち上がることが分かった。この結果は状態密度関数のLaplace変換を表現する確率振動積分の漸近挙動に対する結果に同値である。この漸近挙動は精密に調べることは難しいが、磁場に対する適当な仮定の下ではGauss型確率場の2乗をscalar potentialにもち磁場をもたないSchrodinger作用素に対する同様の問題を考えれば我々の目的に適う評価は得られことが分かり、被積分汎関数が正値の汎関数積分の漸近挙動を調べる問題に帰着されることが分かった。この漸近挙動もDonsker‐Varadhanの大偏差理論等の常套手段を有効に適用するにはscalar potentialの滑らかさが弱過ぎて精密に調べることは難しいが、我々の目的に適う評価は得られることが分かった。この研究についてはまだ考えられる問題が多く、今後も追及していきたい。
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