数学や物理の様々な場面においてWiener空間上の汎関数積分の漸近挙動を考える問題が自然に現われる。本研究ではそのうち確率振動積分と呼ばれる被積分汎関数が振動する場合について関係する問題を多角的な方面から取り組むことを課題としている。特に本研究では最も基本的で応用の多い、磁場のあるSchrodinger作用素に関係した確率振動積分を主な対象としている。本年得られた知見の主なものは2次元Euclid空間上の2次のHamiltonianのスペクトル構造を完全に決定したことと、このHamiltonianによって生成されるheat semigroupの積分核にmetaplectic表現とMehlerの公式を用いた表現を与え、その積分核の1つの解析法を与えたことである。これは松本裕行氏(名古屋大)との協力によって得られた結果であり、以前にHamiltonianに非負定値性を仮定して行っていた研究を一般の場合に拡張しようとする試みの中で得られた。この非負定値性の仮定をはずすという問題は確率振動積分の可積分性の問題に関わってくる。実際対応するheat semigroupの積分核の確率振動積分による表現はHamiltonianが非負定値のとき以外は収束するとは限らない。特に大事なことはこの表現が絶対収束はしないが条件収束する確率振動積分の具体例を与えることである。我々は本研究でこの基本的で具体的な場合に確率振動積分の可積分性の問題に取り組む1つの方法を与えたことになる。この研究についてはまだ次元を一般にするなどの問題が残されており、今後も追及していきたい。
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