1. Wignerによって発見された交換関係は、量子力学における正準交換関係の1つの拡張になっている。この交換関係にしたがう1次元調和振動子の運動量作用素は-iDで与えられる。ここで、D=∂/∂x-(c/x)R、Ru(x)=u(-x)、またcは実数のパラメータである。この作用素Dの特徴は原点x=0で特異、ということにある。パラメータcがゼロのときにはD=∂/∂xとなり、これについては偏微分方程式論で重要なSobolevの埋め込み定理やFriedrichs-Lax-Nirenbergの定理が知られている。その結果、偏微分方程式の弱い解の‘滑らかさ'につぃての知見が得られる。そこで、原点で特異になる上記のような作用素についても同様な定理が成立するのか、ということを調べた(研究発表欄の2番目の論文)。このような作用素に関しては‘滑らかさ'のみならず‘原点における特異性'についての知見も期待通りに得られた。この結果をBerlinで開催された国際数学者会議1998で報告するとともに、このsessionにおいて座長を務めた。さらに係数が特異な、ある拡散方程式のexplicitな解を発見したので論文にまとめた(研究発表欄の1番目の論文)。 2. 正準交換関係が仮定された量子力学はEuclid空間上の力学法則とみなされる。他方、これ以外の交換関係を仮定することにより、いろいろな多様体上の量子力学が提案されている。そしてこれらが正しく量子力学となりうるためには力学変数が自己共役作用素でなければならない。したがって自己共役性の証明から、どれが量子力学として妥当であるかを判定できる。Diracの方法によるS^1上の量子力学にあらわれる力学変数の自己共役性を証明し、そしてスペクトルの解明を行った。また、これをS^1上の量子力学的粒子の運動を記述するSchrodinger方程式へ応用した(研究発表欄の3番目の論文)。
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