重力レンズ現象を用いてレンズ天体の質量を測定すると従来の方法で測定されていた同じ天体の質量より大きな値をあたえることが近年問題として取り上げられていた。今年度は、独自のX線観測データをもとにこの問題の解決への糸口を探ることを試みた。 X線観測によりMG2016+112という名前の約120億光年彼方(z=3.27)にある重力レンズQSOに対してX線観測を行い、重力レンズQSOの手前我々から約90億光年(z=1)の距離に銀河団が存在することを示した。これによりX線を用いたダ-クレンズ探査の重要性を示すことができた。同時にこの研究は、銀河を殆ど含まない巨大な天体の存在を示唆することになり新たな問題を提起した。この問題に決着をつけるためにハワイ島マウナケア山頂にある最新鋭光学望遠鏡CFHTを用いた銀河の探査を私が立案した。この計画は採択され、観測を行ってこの新天体に幾つかの銀河が存在することを示す事ができた。これによりこの天体は新種の天体では無く、通常の銀河団である可能性が高いことを示すことができた。 上記研究とは別に、重力レンズ現象により質量分布が測定されていた銀河団にたいしてX線観測を立案し、この銀河団からX線初検出に成功した。この成功により、この銀河団に対して重力レンズ現象を用いた銀河団質量分布測定結果とX線観測から求めた質量分布測定結果の比較を行うことが始めて可能となった。この結果、銀河団質量分布の不規則性を考慮することで、二つの独立の方法を用いて求めた質量分布が一致することを示す事ができた。これにより二つの方法から得られた質量の食い違いを説明するために提案されていた様々なエキゾチックなモデルに制限を与えることができた。 来年度は、一定の条件の元で選ばれたサンプル天体にたいして同様の研究を行い重力レンズを用いた質量測定とX線観測を用いた質量測定の結果の食い違いが質量分布の不規則性により全ての場合に於いて解消するのかどうか調べて行きたい。
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