研究概要 |
天文台で稼動中のイオンビームスパッタ装置により、Si02,Al205,Ti02,Ta205の単層膜を製作し、その分光特性と膜厚を測定した。膜厚は触針式と光学式を併用し、ほぼ一定した膜厚を得ることができた。次に、この膜厚測定値と分光特性から屈折率分散を導出した。この屈折率分散は、光学薄膜を設計する上で最も大事なパラメータである。屈折率は、成膜プロセスの条件によっても変化するので、これについても調査した。 方法は、エリプソメータによる測定である。結果について簡単にまとめると、プロセス中の酸素流量が十分高い場合は、安定した屈折率の膜を生成でき、これはスパッタされるターゲットと基板の距離によっても変化することが分かった。複素屈折率の虚数部分、つまり薄膜の吸収については、値が小さすぎて測定不能であった。これは、イオンビームスパッタ膜が非常に低損失であることの証拠であり、歓迎すべき結果である。 分光エリプソメータでは、薄膜の吸収についての測定ができなかったので、これを多層膜ミラーを製作することによって測定することにした。製作したのは、Ta205/Si02の30層ミラーで、設計反射率が99.99%である。このミラーの反射率を測定すれば、その設計値からの誤差で、吸収を評価することができる。しかし、通常の方法では設計値と実測値を直接比べることができない。そこで、設計反射率の新しい測定法を考案した。これはミラーの透過率の角度依存性を測定して、理論式にフィットすることで設計反射率(損失が無い場合の反射率)を得る方法である。以上の準備の下で、広帯域反射防止膜の設計と製作を行った。まず、市販の薄膜設計ソフトにより400〜800nmで反射率1%以下の薄膜を設計した。これを実際に成膜し、その反射率を測定した。その結果、全帯域で0.7%以下の反射率になっていることが確認できた。
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