国立天文台実験開発センターに設置されたイオンビームスパッタ(IBS)装置により、高性能光学薄膜の研究を行った。実際に作成したのは、広帯域反射防止膜、低損失ミラー、広帯域ミラーである。 まず広帯域反射防止膜は、すばる等の新世代の光学赤外望遠鏡に装着する観測機器にとっては必須である。本研究で目指したのは350〜900nmという範囲で反射1%以下という、非常に高性能なコーティングである。2年にわたる研究の結果、このようなコーティングに必要なことは、計算機シミュレーションを駆使して成膜デザインを最適化すること(新しいアルゴリズムを開発)、精密に膜厚をコントロールすること(IBS装置では0.1nm程度の制御が可能である)、膜物質の屈折率の波長分散を4桁の精度で把握すること(分光エリプソメータによる測定と膜透過率のフィンティング結果を組み合わせる)だということを明らかにした。 次に低損失ミラーについては、30層の高反射ミラー(反射率99.95%以上)を繰り返し製作し、その特性を評価した。最初は基板表面のゴミによる散乱がミラー損失を決めていたが、環境や洗浄法の改良によって、損失100ppmレベルのミラーを製作できるようになった。また、損失の2次元マッピング測定データから、ビーム径が1cm以上に大きくなった場合のミラー損失を評価した。低損失ミラーについては、如何に反射率設計精度をあげるかという今後の課題に取り組む充分なデータベースを作成したことになる。 最後に広帯域ミラーであるが、現在精力的に研究が進められているOPOの性能を決めているのがこれである。周波数チェーンの研究を行っている計量研との共同研究として、広帯域OPOの開発をした。特に、結晶に直接広帯域ミラーコーティングをするため、表面反射による損失が少なく、それだけ高性能なものができるわけである。実際に、この方式での発振を確認しており、これからも発振範囲を広げられるはずである。
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