研究概要 |
拡張された反対称化動力学(AMD-V)は,これまで重い系への適用が困難であったが,枠組みの改良により重い重イオン反応系への適用が可能になった.まず,AMDハミルトニアンの厳密な計算には系の質量Aの4乗に比例する演算量が必要であるが,A^3に比例する演算量で評価可能な近似式を導出した.さらに,波束拡散によるゆらぎをランジュバン方程式的なものに再定式化することにより,数値計算が容易になった. 重い系へのAMD-Vの適用が可能になったため,当初予定していたKr+Nb反応ではなく,実験的にも現在注目を集めている^<197>Au+^<197>Au反応を集中的に研究した.入射エネルギーが100MeV程度の中心衝突では10個以上の中間質量破砕片ができることが実験的にはわかっている.これは多重破砕反応(液相気相相転移)を示唆しているが,ほかの古典的な動力学計算(QMDなど)では,そのような傾向は全く再現されていなかった.それに対し,量子力学的なAMD-Vの計算では,中間質量破砕片の多重度の実験データを再現することが確認された.また,入射エネルギー150MeVと250MeVでは,今年度新しいデータが発表されたが,核子から中間質量破砕片までのフラグメントの電荷分布が,Gogny力によるAMD-V計算によりほぼ完璧に再現された.Gogny力は軟らかい状態方程式に対応するが,硬い状態方程式では実験データを再現することはできず,フラグメント生成が状態方程式を反映することも明らかになった. このほか,^<60>Ca+^<60>Caの系を例にとり,状態方程式のアイソスピン依存性(対称エネルギーの密度依存性)がフラグメント生成にどのような影響を与えるかを調べた.その結果,状態方程式を区別することを示唆する予備的な結果を得た.
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