本研究では対相関場を平均場と対等に扱えるHartree-Fock-Bogoliubov(HFB)法を座標表示(実空間)で解く手法の開発を進めた。 実空間での表示は、対相関への連続状態の寄与の精密な評価に必要であるとともに、特定の基底関数による展開を用いずに波動関数を記述することで表面形状や密度の裾野の広がりに対する偏見を持ち込まない点においても不安定核のようなエキゾチックな対象を扱うのに適している。この方法により、中性子対相関への連続状態からの寄与が決定的に重要である中性子ドリップ線の位置の決定や、中性子分離エネルギーが主殻間距離(数MeV)より小さい中性子過剰核(数千個ある)を精度良く記述することができるようになる。 具体的な手法としては、昨年度の研究から得た結論により、過去に提唱された「二基底法」ではなく「HFB正準基底」による解法を採用することにした。誤りを排した適正な定式化と最急降下アルゴリズムの様々な改良により、ゼロから開発したプログラムは効率的に動作する実用的なレベルに達した。また、様々な状況での計算を試行することで、対相関にカットオフを設定する必要性が明らかになった。現実の計算では正準軌道の個数に制限をつけざるを得ないが、その好ましい副作用としてカットオフが不要になるのではないかという期待を当初は持っていたが、実際には、二体相互作用のレンジが零でカットオフがない場合、高いエネルギーを持つ正準軌道が点状に収縮した物理的に無意味な解が得られることがある(しかしカットオフなしで有意味な解が得られる場合も多い)とわかったのである。そこで、カットオフの導入方法を複数考案し、それらにより点状収縮を回避できることを確認し、各方法の得失を調べた。
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