核子間には強い短距離相関と強いテンソル力を持つ二体の核力に加えて三体力や長距離力であるクーロン力も作用する。これにより、少数核子(ハドロン)系多体問題の物理的内容は非常に豊富になっているが、一方では、理論的解析を著しく困難にしている。 この問題を克服するため、報告者は波動関数の「Gauss型基底関数系を用いる展開法」を導入する事により、これらの相互作用を含むエネルギー多重積分の実行を極度に簡単化し、「組み替えチャネル結合変分法」という扱い易い多体問題の理論的枠組みに組み込む手法を開発してきた。本研究では、この方法を更に発展させ、核融合反応素過程や宇宙における元素合成等の三・四核子が関与する重要課題へのアプローチの可能性を追求した。 具体的には、大次元(数千〜一万次元)のハミルトニアンとノルムの行列要素を求め、対角化を実行、あるいは連立一次方程式を多数回解くことになる。そのため、本研究費で、大容量の主記憶装置を持ち、高速に浮動小数点演算を実行できる数値計算環境を整備した。現在のパーソナルワークステーションの演算能力の伸長は目覚しく、採用されるCPUの演算性能は1980年代のベクトル型スーパーコンピュータに迫るほどに伸長した。四核子束縛状態の理論的解析を例に、複数台のワークステーションで並列計算を行うことにより、基礎的計算のほとんどをパーソナルワークステーションで実行可能であることを示した。 同時に、微視的計算に先立って、少数核子が関与する低エネルギー核反応における偏極量の一般的振る舞いを不変振幅法により理論的に明らかにし、実験値の存在する幾つかの反応例で検証した。これにより三・四核西系の精密波動関数を用いる微視的な反応解析において模型空間を如何に設定するべきかなどについて重要な指針を得ることができた。
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