ひとつの単位胞(サイト)の電子励起状態は電子-格子相互作用によって、ある格子歪みを伴った準安定状態に一旦緩和するが、その際に近接サイトの格子歪みを誘発する。この微視的過程が協力しあってどのようなダイナミックスを経て、結晶全体の格子歪み状態すなわち構造変化した状態に移り変わるのかを明らかにするために、本年度は、最も単純な1次元局在電子-格子系を考察した。 各サイトに局在した2準位電子が格子歪みと相互作用する系をモデル化し、光励起によって生成された局所的励起状態のエネルギー緩和と時空間伝搬過程とを数値シミュレーションによって追跡した。本モデルは、ユニットセル(分子)内の電子トランスファーを含み、非断熱遷移と断熱遷移とを自然な形で取り入れることができる。また、自然放出を伴う光過程と有限温度での熱過程との競合を議論するのに適している。本年度は特に、断熱断熱遷移のみが支配的なパラメータ領域で、励起光が弱い極限(1サイト励起極限)を詳しく調べ、格子歪み間結合強度と相互作用距離との空間上での「相図」を得た。結合強度が弱い場合は、励起された1サイトのみが局所構造変化を起こした状態が準安定であるのに対し、結合強度が強くしかも長距離力の場合は、すべて元の状態に戻ってしまうことが明らかになった。ドミノ倒し効果によって大域的構造転移が生じるのは、相互作用距離が短距離で、ある程度強結合の場合のみに限られる。これは平均場近似では記述できない結果である。また、古典的核生成理論をキンク-反キンクソリトン対生成のダイナミクスに適用し、転移時間や空間ダイナミクスを数値的に明らかにした。運動学的スピン模型へのマップや現象論的モデルによる解析も行っている。 来年度は、多サイト励起下での時空間ダイナミクスの解析と併せて、非断熱遷移の効果と核生成初期過における量子ゆらぎの効果とを明らかにし、微視的から巨視的あるいは量子的から古典的状態への動的クロスオーバーを考察する予定である。
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