今年度は、対象をポルフィリン(TPPS)のJ会合体に移して、コヒーレント会合体の励起子状態の研究を行った。電場変調分光法では、TPPS-J会合体分散膜を異なる色素濃度で作成した試料について比較検討を行った。その結果、コヒーレント会合体の会合分子数は、分極率の増大因子から4〜6個と求められた。さらに、コヒーレントJ会合体の会合分子数を会合平衡の条件式から簡便に決定する方法を適用し、TPPS水溶液にKClを添加して会合体を形成した試料では会合数が7個程度と求められた。この会合分子数は励起子吸収強度から求めたものなので、コヒーレント会合体(メゾ会合体)の構成分子数であるといえる。 今年度はさらに電場変調ホールバーニング分光法に加えて、フェムト秒分光法によりTPPSJ会合体の光学時間応答を詳しく測定した。フェムト秒吸収変化の時間変化は長寿命成分(50ps)の他に、1ps程度の短寿命成分とパルスに追従する瞬時成分の3成分の和で再現できた。信号をこれらの3成分に分解した後のそれぞれの信号強度を励起密度の関数としてプロットすると、瞬時成分と長寿命成分は励起密度に比例するが、短寿命成分は励起密度の二乗に比例することがわかった。 長寿命成分50psはすでに報告されている蛍光寿命と一致しているので、S1励起子の寿命と考えられる。瞬時成分はフェムト秒干渉計による非線形感受率の実部の測定から、溶媒である水の応答であることがわかった。短寿命成分は、励起密度依存性と併せて、ポルフィリンJ会合体のS2励起子帯(Bバンド)の一光子禁制遷移が二光子共鳴付近に広がっていることから、二光子励起されたS2励起子の緩和過程に関係しているものと結論された。
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