本研究ではアルカリハライドのオンセンター型自己束縛励起子(STE)の再結合発光過程に対して、誘導放出と発光エネルギー位置に重なる過渡吸収の差としてのネットな光学利得が存在するかどうかを明らかにすることを目的としている。これまで、STEの過渡吸収の測定が発光エネルギー領域において行われていない一つの理由は、STEの発光強度が強いため、例えばキセノンランプなどのプローブ光のSTEによる強度変化を発光と分離して観測することが難しいことによる。そこで、本研究においてはプローブ光としてパルス色素レーザを用いることにより空間的、時間的に発光と分離して、再結合発光エネルギー領域におけるSTEによるプローブ光の減衰/増幅の測定を行う計画であった。本年度は作製した検出系のパルスレーザ動作下での動作確認を行い、ブリーダー回路の最適化、出力リニアリティの保証される動作領域の確認を行った。色素レーザシステムの不調のためポンププローブの実験を行うことはできなかったが、ArFエキシマレーザ励起下での束縛励起子発光強度の励起光強度依存性を作製した検出系を用いて測定した。沃素濃度0.1mol%、1.0mol%(仕込み濃度)の塩化カリウム試料について、発光強度は励起光強度に対してスーパーリニアな依存性は示さず、この系の光学利得については否定的な結果となった。この原因としては結晶中のダイマー濃度が不十分であったことが考えられる。十分な沃素ダイマー濃度の結晶を得るためには、沃素濃度を増加させると結晶が不安定になり相分離、白濁化してしまうという問題を解決しなければならない。将来的に、例えば、結晶中に選択的にダイマーの形で沃素を添加するような技術が可能になれば、この系は波長可変紫外線レーザ媒質としての可能性があると考えられる。
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