遷移金属クラスターの幾何学的磁気構造を明らかにするために、今年度はワークステーションを購入し、以下の研究を実施した。 1.従来の局所密度汎関数法による電子状態の計算を行うとともに、より精度が高いとされるハートリー・フォック-密度汎関数混成法による計算が可能なプログラムを導入し、いくつかの遷移金属クラスターについて計算を行い、計算法や基底の選択法の妥当性を議論した。 2.局所密度汎関数法に自己相互作用の補正を加え、自己相互作用補正による効果が遷移金属クラスターの磁性にどのような影響を与えるかを議論した。 上記の研究の結果、今年度は以下のことについて明らかにした。 1.Niクラスターの磁気モーメントは、孤立原子の磁気モーメントに近い大きな値をもつことが実験的に知られているが、局所密度汎関数法では、それよりかなり小さい、結晶の値に近い磁気モーメントを導いてしまい、実験と理論との不一致を生じていた。今回、原子構造を最適化したハートリー・フォック-密度汎関数混成法による計算を行ったが、この方法によっても磁気モーメントは局所汎関数法と類似の結晶に近い値となった。したがって、現段階においては実験値と理論値との一致は見られない。自己相互作用補正についても同様である。 2.Ni、Coクラスターについて、原子数が150程度のかなり大きな系の計算を行い、磁気モーメントの幾何学的構造、すなわち、表面から内部に従って起こる振動構造をより明らかにした。また、孤立クラスターと金属中に埋め込まれたクラスターの磁気モーメントの比較を行い、埋め込みクラスターと孤立クラスターとでは磁気モーメントの幾何学的構造が大きくことなることを明らかにした。
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