本研究は電子ライナックを用いて発生させるミリ波コヒーレント放射を、固体分光の新たな光源として利用して、低エネルギー固体分光研究における新たな計測法の確立を目的とする。 測定対象となる種々の固体試料は、必ずしも十分な大きさのものが得られるとは限らないため、光源の輝度はできる限り高くしなければならない。ミリ波コヒーレント放射の輝度は電子ビームのサイズで決まるため、金属箔の窓による多重散乱を防ぐために、ライナック直結型の高真空光源室を製作した。到達真空度は2×10^<-7>Paであり、放射体であるアルミ箔の角度を変えることができるように高真空用回転導入機を設置した。光取出し用の窓には直径60mm、厚さ3mmの溶融水晶を用いインジウム線でシールした。 次に全分光システムの性能をテストした。まず、ライナックの運転条件を調整した結果、本ライナックにはQマグネットが設置されていないにもかかわらず、発光点で8mmのサイズに電子ビームを絞ることができた。この時の試料位置での光束のサイズは10mmであった。全体の光学系が1/3の縮小系になっているので本来は3mm程度になるはずであるが、鏡などの光学素子が波長に比べて十分大きくないことによる回折効果の影響であると考えられる。光強度の時間的な不安定性は20%を超えることもあるが、光強度モニター用の検出器を追加することにより約5%に改善された。次に、フーリエ変換干渉分光計を用いて試料を通さない場合の参照スペクトルを測定した結果、波長0.5mmから10mmのミリ波領域全域にわたるスペクトルが得られた。さらに、ミリ波領域の波長較正に使われる亜酸化窒素ガスの純回転スペクトルを測定したところ、基底状態の量子数でJ=2からJ=20の吸収が観測され、本システムの有効性が確認された。
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