固体は構成原子の価電子の基底状態を反映して原子同士が結合した熱力学的に安定な状態にあると考えられる。しかしながら、固体中イオン伝導の様な固体を構成する原子の移動現象は、必ずしもその固体が熱平衡状態にないことを意味しており、この様な物質の準熱平衡状態とその電子状態との関係に興味が持たれる。本研究は、この様な観点から、固体の構成原子の移動現象を電子励起状態から説明することを目指したものである。 本年度はアルカリハライド薄膜結晶の作成及びそれらの光強励起下での構造変化を中心に研究を行った。 アルカリハライドの単結晶や混晶系の薄膜を融液より作製し、励起子帯や不純物帯等を中心とした光学的特性を極低温域で測定した。通常、混晶は混合する元素の種類やその混合比によっては成分が分離して白濁してしまい、混晶にならない場合があるが、今回用いた薄膜結晶作製法では、混晶にならない系で混晶試料を得ることができた。この様な混晶系は本来相分離することから明らかなように熱力学的に不安定な状態にあると考えられ、熱力学的に安定な系に比べその構成原子が移動し易いと考えられる。この様な混晶薄膜に対する光スペクトルの測定の結果、混晶比に応じて特異な励起子帯の変化が観測された。さらにこれらの混晶試料をレーザー光で強励起すると直ちに試料が白濁することを見い出した。これらは試料が非平衡な混晶状態から安定な相分離へと構成原子の移動が起こっているものと考えられ、レーザー光照射は原子移動を大きく誘発するものと考えられる。 さらに、KI結晶に強度が空間的に変動しているレーザー光を照射した場合、構造の変化が照射光強度だけでなく励起光強度の空間変化に依存していることを見い出した。これは原子移動が局所的原子励起のみで起こるのではないことを意味しており、空間的にエネルギーが変化するような非平衡状態が関係するのではないかと推測される。 今後、本年度の研究を引き続き行うとともに、アルカリハライド系以外の物質系も含めながら展開していく予定である。
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