本研究は、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて擬一次元導体のスピン密度波(SDW)および電荷密度波(CDW)相での電子状態を明らかにすることを目的としている。今年度は有機導体(TMTSF)_2PF_6の単結晶作成とSDW相におけるSTM分光測定を重点的に行った。 擬一次元有機導体(TMTSF)_2PF_6の単結晶をH型結晶成長セルを用い電解法により作成した。低湿度雰囲気を保つことと、結晶成長の度合いに応じて流す電流量を制御することにより、10×2×0.1mm^3ほどの大きさの良質な単結晶が多数作成された。得られた単結晶試料に対しSTM分光測定を行ったところ、SDW転移温度T_<SDW>=12K以下ではSDWにともなう明確なギャップ構造が観測された。トンネル微分コンダクタンスカーブの形は擬一次元導体に対する平均場理論から予測される状態密度スペクトルと一致することが分かった。一方、SDW転移温度以上においては、ギャップ構造は完全には消失せずゼロバイアス付近にくぼみを持つことが明らかになった。ゼロバイアスでのコンダクタンスは温度の上昇とともに増加し、40K以上ではコンダクタンスカーブは平坦となりノーマル金属相であることを示す。擬キャップ的振る舞いの原因としては、電子系の低次元性によるゆらぎの効果が考えられるがまだ明らかにはなっていない。電気抵抗、磁化率、比熱、NMR緩和率等の物理量との対応付けを行い、擬ギャップの原因を解明することが今後の課題である。
|