Mnペロブスカイト酸化物は、キャリアド-ピングによって反強磁性絶縁体から強磁性金属へと転移するが、転移近傍のかろうじて金属強磁性となる状態で巨大な負の磁気抵抗CMRを示す。研究目的は、キャリア濃度を保ったままで電子バンド幅を系統的に変化させた単結晶を育成し、中性子散乱によりスピンダインミクスがどのように変化するかを明らかにすることである。本研究ではバンド幅の比較的広いLa_<1-x>Sr_xMnO_3のLaサイトをイオン半径の異なるYで置換することにより、Mn-O-Mnのボンド角を変化させ、電子バンドをコントロールすることを試みた。 1.多結晶試料の育成 粉末酸化物を購入し、ガス雰囲気炉で固相反応により多結晶試料を育成した。焼成条件は示差熱・熱重量分析装置で調べ、X線粉末回折装置によって単相になっていることを確認した。Yの増加にともない単相を得るために必要な焼成温度が上昇し、Y20%置換が限界であることがわかった。 2.単結晶試料の育成 多結晶粉末試料を使用し、FZ法により単結晶試料を育成した。育成条件を最適化することにより、中性子非弾性散乱実験に十分対応できる6mmφ×80mm程度の大型単結晶の育成が可能となった。 3.基礎物性測定 電気抵抗、磁化の温度変化とともに、中性子弾性散乱により磁気および構造相転移の秩序変数の温度変化を測定した。その結果、Yドープに従いT_cは単調に減少し、バンド幅を狭めたことが強磁性発現に必要な二重交換相互作用を弱めていることがわかった。また、多結晶の電気伝導特性がグレイン境界の存在により、単結晶のそれとは著しく異なることから、単結晶の必要性が明らかになった。 4.中性子非弾性散乱 スピン波の分散曲線はE=Dq^2で表わせ、Yドープ量の変化とともにスピン波速度DはT_cにスケールして変化することがわかった。また、スピン波のエネルギー幅はΓは磁化M(T)とスピン波の特性周波数ω_qを用いて、Γ∝(1-M(T)^<>)ω_qと表わされ、二重交換相互作用から予想される結果に良く一致した。
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