研究概要 |
酸化物高温超伝導体YBa_2Cu_3O_y単結晶をフラックス法を用いて作製し,一軸加圧下で熱処理を行うことにより高品質の非双晶単結晶を得ることに成功した.これらの不規則性が小さい高品質単結晶(T_C【similar or equal】92K)に対して電子線照射により点欠陥を人工的に導入し,照射前後の磁束状態を同一の単結晶を用いて調べた.電子線照射は日本原子力研究所・高崎研究所において行い,2.5MeVの電子線を照射した.また,東北大学金属材料研究所のハイブリットマグネットを用いてHall素子による磁化測定と電気抵抗の測定を最大30Tまで行った結果以下のことが明らかになった.電子線照射により磁束格子融解1次相転移線の臨界点はH_<cp>【similar or equal】11T(照射前)から5T(2×10^<18>e/cm^2照射後)に減少した.このことから,磁束格子融解転移は非常に微量の不規則性によって消失することが明らかになった.一方,H_<cp>以上で観測される磁束グラス転移線は照射量の増加とともに低温側に移動した.この結果は重イオン照射による柱状欠陥の場合とは異なり,電子線照射により導入されたランダムな点欠陥が磁束液体の揺らぎを増加させることを示している.磁束固体相においては,磁束格子状態と磁束グラス状態の境界線であるH^*(T)において磁化の急激な増大が観測された.照射後にはH^*(T)は低磁場側に移動するが常に臨界点に到達し,導入された点欠陥によって磁束グラス状態が安定化されることが分かった.これらの結果は,H^*(T)の起源が磁束構造の相転移(規則-不規則転移)であるとする最近の理論を用いてよく説明できることが分かった.
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