4d遷移金属化合物Sr2RuO4は、当初超伝導転移温度より低温においても温度に比例する比熱が観測されたことから、いわゆる非ユニタリーp波超伝導が実現しているのではないかと考えられた。本研究の当初の目的は、この物質において本当に非ユニタリーp波超伝導状態が実現しているのかどうか調べること、そして非ユニタリー超伝導状態を安定化するメカニズムを探求することであった。いくつかの非ユニタリー状態を安定化するメカニズムを検討したがいずれも実現性に乏しいことがわかった。一方、その後実験が進展し、実験的に非ユニタリー状態が実現している可能性はきわめて小さいことが確かめられてきた。同時に、Sr2RuO4でユニタリーp波超伝導状態が実現している可能性は非常に高まってきている。このような状況のもと、本研究の方向は、非ユニタリー状態にこだわらず、どのようなメカニズムによってp波超伝導が実現しているのかを明らかにする方向に変更されてきた。この観点から行われた研究は、(1)2次元の相互作用するフェルミ粒子系(Sr2RuO4は2次元的である)のスピンゆらぎの特性を明らかにすること、(2)フント結合の、p波超伝導への効果を明らかにすることでる。(1)で明らかになったことは、2次元においては帯磁率等に非解析的寄与があることである。これは最近興味を持たれている量子相転移の問題と関連して今後発展する可能性が高い成果である。(2)に関しては、フント結合によってp波チャンネルにつよい引力が生じることがわかった。Sr2RuO4における超伝導メカニズムにおいてきわめて重要と考えられる。
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