研究概要 |
ほぼ理想的な2次元Fermi流体系と考えられる。graphite表面に物理吸着したヘリウム3(^3He)の吸着第2層の液相(面密度12.0及び15.0nm^<-2>)について0.1mK<T<80mKの温度範囲で比熱を測定し、Fermi流体としての性質を調べた。過去のAT & T Bell研究所のGreywall等よる2mKまでの測定で、約3mKにおける比熱の折れ曲がりが超流動転移の可能性があるとして注目されていたが、今回の測定ではこの折れ曲がりはなく、Bell研グループの測定上の問題であったと考えられる。一方、彼らにより指摘されていた温度に依存しないほぼ一定の比熱の寄与は100μKの低温まで存在することが確認された。これは基盤の不均一な領域の吸着第2層のアモルファス固体^3Heが徐々に短距離秩序に伴うエントロピーを解放しているための寄与と考えられる。^3He準粒子の有効質量はそれぞれ裸の原子の1.2倍、2.7倍であった。 一方、約5原子層のヘリウム4(^4He)の上に浮かんだ^3He(面密度0.38,0.47及び1.0nm^<-2>)についても比熱測定を行った。比熱から^3He準粒子の有効質量は原子の質量の1.3倍程度であったが、これは下地となる^4Heのbackflowを伴っているためであり、理論予測と定量的によく一致した。^3He面密度の増大とともに^3He準粒子間相互作用が強まり有効質量の増大が見込まれるが、今回の測定範囲ではこの増大は非常に小さく、上述の^3He吸着第2層液相における場合に比べ準粒子間相互作用が非常に小さいことを示唆している。これは、^4He上では^3Heの高さ方向の局在性が緩く、^3He原子の運動に対し他の原子がこれを避け得る空間が広いためであると考えられる。なお、この系では温度に依存しない比熱の寄与は観測されなかった。これはアモルファス固体^3Heが^4Heに置き換わり、磁気比熱をもたなくなったためであると考えられる。
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