強磁性体電極をもつトンネル接合を真空蒸着法により作製し、低温から室温までの広い温度範囲で磁気抵抗の測定を行った。特に、Ni/Al-Al_2O_3/Co接合において、Alの超伝導転移温度以下で10%以上の磁気抵抗を観測した。この磁気抵抗は超伝導転移温度以上で消失することから、通常のトンネル磁気抵抗効果によるものではなく、超伝導の効果によるものであることがわかった。観測された磁気抵抗の原因を、Al薄膜の電気抵抗と超伝導エネルギーギャップの磁場依存性によって説明することができた。Al-Al_2O_3/Ni接合の磁気抵抗の測定によって、この解釈の正当性を確かめた。これらの接合でみられる低磁場での大きな磁気抵抗を利用して、低温における磁性薄膜表面の局所磁化特性を精密に調べることが可能であると考えられるので、この方向への研究の展開を計画している。磁気抵抗と磁化の相関を明らかにするために、SQUID磁化測定装置を用いて磁性薄膜の磁化率の測定を行い、Ni薄膜とCo薄膜について、磁化特性及び保磁力の温度依存性と膜厚依存性を明らかにした。この測定結果から、強磁性トンネル接合の磁気抵抗の理解を深めることができ、磁気抵抗比を大きくするための指針を得ることができた。次に、微小トンネル接合の研究に使用することを目的として、STM装置の試作を行った。トンネル電流と試料-探針間の距離の関係を測定した結果、トンネル電流の距離に対する対数依存性を確認し、その結果から見かけ上のトンネル障壁高さを求めることができた。試料または探針に磁性体を用いた場合と非磁性体を用いた場合では異なった結果が得られており、この原因についての研究を進めている。補助金によって購入した備品及び消耗品が、上述された当該年度の研究の遂行におおいに活用された。
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