研究概要 |
液体テルルは共有結合でつながった鎖状構造を有するが、融点直上で金属的な振る舞いを示す。熱電能の符号は正であるのでキャリアーは電子ではなく正孔であると考えられるが、ホール係数の符号は負である。この謎に迫るFriedmanEminによる理論的考察に従えば、ホール係数の符号は、鎖を構成する原子の幾何学的配置を反映したキャリアーの運動経路に左右される。我々は、液体テルル混合系のホール係数を測定することにより、この系の伝導機構について検討を加えている。 液体特有の磁気流体効果や、試料抵抗による電圧効果を排除して、ホール電圧を直接検出するために、我々は交流磁場(400Gauss,1Hz)、交流電流(0.5A,1kHz)のいわゆる2交流法によりホール係数測定を行っている。高感度のデジタルロックインアンプを用いることにより、ナノボルト・オーダーのホール電圧を直接検出している。試料セルとしては、幅3mm、長さ10mm、厚さ0.1〜0.5mmの試料部を有する石英ガラス製セルを用いている。 液体テルル混合系が金属化する際に鎖間相互作用の増加が重要な役割を果していることが、中性子散乱実験や密度測定などから明らかにされている。我々は、Asを添加することにより鎖間相互作用と伝導機構の関係を調べることを目的として、液体TeAs系のホール係数の測定を行った。Asを添加することによりホール係数は大きく増加し、温度の上昇と共に急激に減少して液体Teのホール係数の値に近づいていく。また、液体Teのホール移動度が温度によらずほぼ一定であるのに対し、混合系ではAs濃度の増加に伴って高温側へシフトするピークがみられる。ピーク温度ではモットの最小金属伝導度に近い値を示しており、金属・半導体転移と密接な関係がある。さらに、鎖間相互作用の効果を直接みるために、高圧下でのホール係数の測定を準備中である。
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