第一に、一次元系銅酸化物のなかでも、特にエッジ共有型の銅・酸素鎖を持つ物質群に注目した。エッジ共有型鎖では銅と酸素の結合角が90度に近いということを反映して、銅間の磁気的相互作用や光学的性質が、高温超伝導物質に代表されるコナ-共有型とは異なった振る舞いをすることが予想される。いくつかの物質に対して、光学伝導度や磁気的相互作用の大きさを系統的に調べることで、エッジ共有型一次元系銅酸化物の電子状態の特徴を明らかにした。とりわけ、結合角の変化によって磁気的相互作用が反強磁性的から強磁性的に変化することを示し、実験で得られた磁化率の温度依存性を定量的に再現することを確認した。今後、エッジ共有型銅酸化物の研究を行なう際には、本研究の成果がその出発点となると期待される。 第二に、一次元銅酸化物の低エネルギー励起を明らかにすることを目的として、スピン励起にギャップを持つ場合の一粒子励起スペクトルを調べた。スピン励起にギャップがない場合には、励起された電子はスピンの自由度と電荷の自由度に別れて運動する。(スピン・電荷分離)そのとき、励起スペクトルにはそれぞれの自由度に対応する構造が現われることが知られている。しかし、本研究の成果として、スピンの励起にギャップがある場合には電荷の自由度に対応する構造の強度が大きく減少することが明らかとなった。さらに、スピンギャップの存在のために準粒子が存在することも明らかとなった。スピンギャップを持つ一次元銅酸化物も現実に存在するので、本研究の成果を確認する実験が望まれる。
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