平成10年度は、カルコゲン元素の内で、特にテルルに注目して研究を行った。テルルは結晶では半導体であるが、融解して液体になると金属的性質を示すことが知られている。テルルの金属化は、液体中で鎖状のテルル分子がスタックし、鎖間をキャリヤーが移動できるようになるためであると考えられている。このようなテルルのクラスターで、電子状態がサイズと共にどのように変化するのかは興味深い。 試料に用いるテルルは蒸気圧が低いため、クラスターを生成するのに十分な粒子密度を得るためには従来よりも高温まで加熱でき、かつ反応性の高い試料ガスに十分耐えられるクラスター源が必要であり、このためクラスター源の改良を行った。得られたクラスターの質量スペクトルから、Te_<12>前後までのクラスターが生成していることが確認された。またその分布はセレンクラスターの場合とよく似ており、その比較的小さなクラスターの構造はセレンクラスターと同様に環状構造をとっていると考えられる。 このテルルクラスタービームに対して、平成9年度に製作した装置を用いて質量選別光電子分光を行い、Te_<12>からTe_8までの比較的小さなテルルクラスターの光電子スペクトルを測定した。同じ力ルコゲンに属するセレンの場合には、クラスターの対称性の変化にともなって、そのイオン化ポテンシャルなどに構成原子数の偶奇による明瞭な変化が観測されているが、今回測定したテルルの場合、Te_5からTe_8クラスターの光電子スペクトルの構造、イオン化ポテンシャルともに顕著な偶奇性は見られなかった。このような結果はテルルが金属的であることに起因していると考えられる。
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