分数量子ホール状態にある電子系は、その系の周縁部にエッジ状態とよばれる低エネルギー励起をもつ。このエッジ状態は分数量子ホール系のトポロジカルな性質を特徴づけ、系の電気伝導を担っている。今年度主に行った研究は、2つの分数量子ホール系のエッジ状態間の共鳴トンネル電流の計算である。具体的には、2つの量子ホール液体が間に量子ドットを介してつながっている状況を考察した。これは、半導体界面の2次元電子系にゲート電極をつけることにより、実験的に十分実現可能である。量子ドットと量子ホール液体の間には、ゲート電圧によって制御可能なトンネル障壁があるものとして、トンネル電流をマスター方程式を解くことにより求めた。量子ドットにおけるクーロンブロッケイド効果により、この系のコンダクタンスはゲート電圧の関数として、クーロン振動現象を示す。この振動にあらわれるピークに形状およびその温度依存性が、分数量子ホール系のランダウ準位充填率νで決定されることを明らかにした。ピークコンダクタンスは、温度をTとしたとき、T^<1/ν-2>のように変化する。これは、エッジ状態が朝永-ラッティンジャー流体であることのあらわれで、トンネル状態密度がE^<1/ν-1>のエネルギー依存性をもつことの結果である。ピークコンダクタンスが低温で0になることは、共鳴トンネル電流がincoherentなsequential tunneling processによって流れることを意味する。一方、共鳴ピークからはずれたところでは、十分低温におけるトンネル電流は主にcoherentなelastic cotunneling processによって運ばれ、コンダクタンスはT^<2/ν-2>の温度依存性をもつことを示した。
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