磁気転移近傍の異常金属に見られる非フェルミ流体的振る舞いをスピンゆらぎから導くことを目指した理論的研究を行った。 1.重い電子系の量子臨界点近傍の非フェルミ流体 重い電子系のセリウム化合物の反強磁性量子臨界点近傍では、比熱、磁化率、電気抵抗などの温度依存性が正常金属を記述するフェルミ流体論から期待されるものとは異なり、非フェルミ流体的異常金属が見られる。このフェルミ流体論からのずれが、準粒子に対する臨界スピンゆらぎの散乱効果として説明できることを示した。比熱および電気抵抗は、準粒子の自己エネルギーの実部および虚部によってそれぞれ与えられるが、それらに対する臨界スピンゆらぎの寄与を評価し、実験で見られる振る舞いを説明することができた。磁化率は、準粒子の質量の繰り込みと準粒子間の相互作用の臨界異常によって説明されるが、その計算は現在進行中である。 2.銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップ 銅酸化物高温超伝導体では、磁気転移近傍の非フェルミ流体的異常金属相で、電子の状態密度がフェルミ面近傍で減少し擬ギャップが形成されている。この異常金属相は超伝導相にも隣接しているため、擬ギャップを超伝導ゆらぎから理解しようという立場もあり、実際その方向の研究が多くなされているが、本研究では、磁気相に隣接していることが、より重要であると考え、スピンゆらぎから擬ギャップを理解しようとしている。後者の立場は、異常金属相での他の物理量の説明と首尾一貫したものである。電子の自己エネルギーに対するスピンゆらぎの効果を摂動論に基づいて評価し、光電子分光で見られるような擬ギャップを持ったスペクトルを得た。
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