研究概要 |
低次元磁性体の低温量子物性を量子揺動の探究という微視的立場から解明する一方,量子物性研究における方法論的見地からの発展も意図し,数値的・解析的新たな理論体系の開拓にも力を注いだ.低次元特有の量子揺動を縦糸として,スピン・ギャップ系から,フェリ磁性体や金属錯体にも議論を広げた. 方法論的観点からは,まず量子モンテカルロ・プログラムを,さまざまな空間構造や相互作用に対応できるよう整備した.そして,モンテカルロ・スナップショットにより量子揺動の視覚化に務める一方,行列のテンソル積により波動関数を表現する変分法の運用に力を注いだ.これにより,量子揺動の発現機構の包括的理解が可能となった.さらに,スピン波理論にグランド・カノニカル集団の考え方を加味することにより,その熱力学記述能力の従来常識を覆し,幅広い温度領域に渡って半定量的な議論が可能であることを示した.またこれと並行して,密度行列繰り込み群によるd+1次元転送行列計算を発展させ,低温熱力学の研究に新たな道を開いた.一方現象面では,さまざまな低次元電子・スピン系を議論し,低次元特有の量子揺動や格子との結合に起因する,新奇な量子物性を次々と開拓した.ハルデイン磁性体では,隠れた秩序に生ずるソリトン的揺らぎの役割を解明し,ハルデイン相の量子力学的崩壊機構の理解に貢献した.一方新しい低次元量子磁性開拓を目指して議論し始めたフェリ磁性体では強磁性・反強磁性の交錯という,融合磁性とも呼べる興味深い現象を明らかにした.さらに,電子相関に加えて電子・格子相互作用がユニークかつ重要な役割を果たす,ハロゲン架橋金属錯体に注目した.ハロゲン原子や配位子を調節することにより,ハロゲン原子が磁性を担う,新奇なスピン密度波状態が存在可能であることを指摘した. 『新しいタイプの量子揺動の探究』は,十二分に達成されたものと確信する.今後,実験研究分野からのフィードバックが期待されるところである.
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