液体セレンは、三重点近傍において、10万個もの原子が含まれる長い鎖状高分子からなる液体であり、半導体的性質を示す。しかし、温度を上昇させていくと、密度の減少に伴いセレン鎖は徐々に切断され、超臨界領域では、一つの鎖に含まれる原子は10個程度にまで減少する。このとき、液体セレンは、金属的性質を示す。また、液体イオウ、液体テルルも鎖状構造を有しており、セレンと同様、温度・圧力の変化に応じて様々な物性を示す。このように、液体カルコゲンの物性を理解する上で、鎖状構造の安定性と電子状態の関係を明らかにすることは本質的に重要である。この目的のために、本年度は以下のような研究を行った。 (1)液体セレンにおける半導体・金属転移の研究 第一原理分子動力学法による計算機シミュレーションを用いて、流体セレン中での半導体・金属転移のミクロな機構が調べられた。温度の上昇と共に、セレン鎖の長さは短くなり、それに伴って、電子の状態密度におけるフェルミレベル近傍のギャップが消失し、金属状態に転移することが再現された。鎖状構造の時間変化を詳細に解析することにより、セレン鎖の切断の機構と転移の関係が明らかにされた。 (2)光誘起による八員環イオウクラスターの開裂の機構に関する研究 第一原理分子動力学法による計算機シミュレーションを用いて、光誘起によるS_8分子の開裂の機構が調べられた。電子を最高占有状態(HOMO)から最低非占有状態(LUMO)へ励起することにより、直ちにS_8分子が開裂することが示された。この開裂は、反結合的性質を持つLUMOが安定化されるために引き起こされることが明らかにされた。この結果は、液体イオウにおける光誘起重合化の可能性を強く示唆する。
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