本年度の研究においては、カオス揺らぎを受ける系のエネルギー変換問題を中心として研究を進めた。 これまで、カオスを含む、非熱的揺らぎをうける多重安定系の振る舞いは、その理論的解析の困難さもあって、十分な理解が得られていなかった。本研究代表者は、本研究開始前に、非熱的ゆらぎがカオス由来であるときに、その多重安定系の動力学が解析に評価できることを明らかにとしており、その安定的振る舞いが、熱的ゆらぎとは質的にも異なるものであることをも明らかとしていた。多重安定系において、揺らぎからコヒーレントな運動を取り出すことは、ミクロ揺らぎからマクロな力学的エネルギーを取り出していることになる。そのエネルギー変換効率は、何によって決まるのか、どう評価されるのかは、統計力学的に興味のある問題であるため、そのエネルギー論を構築し、ある条件の範囲では、解析的にエネルギー変換効率を求めることが出来た。 エネルギー変換効率は、通常の熱雑音よりも高く、数パーセントのオーダーまで至ることが確認された。熱雑音との、エネルギー変換効率の差異をどのような統計量によって特徴づけるか?これは、力学系における時系列のComplexityの特徴づけの問題とも関連して、大変興味深いものである。また、このような決定論的ゆらぎが、生体におけるエネルギー変換問題と関わりうるのかも、molecular motorの問題とも関連して興味が持たれるところであり、今後の研究課題である。
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