古典極限でカオスを示すような非可積分な量子力学系の性質を、半古典論を用いて解析することによって以下の結果を得た。 (1)量子ビリヤード問題の固有状態を計算する際に用いられる境界要素法(Boundary Element Method)に現れる積分方程式がフレドホルムの第2種の積分方程式の形をしていることを用い、それにもとづいた半古典論を展開した。特に、積分方程式を解くときに現れる行列式が、対応する量子ビリヤード問題の内側固有値問題と外側散乱問題の、それぞれ固有値、散乱S行列の極の情報をすべて持っていることを見つけ、純量子論、半古典論ともにその陽な表式を書き下すことに成功した。この表式をもとに、M.Kacによって提出された有名な逆問題"Can you hear the shape of a drum?(太鼓の形を聞くことはできるか?)に対する新しい側面を議論した。 (2)上記、フレドホルムの行列式から導かれる半古典論的なレドホルムの行列式の解析性を、3つの円弧から構成されるビリヤード問題に対して数値的に調べた結果、もともとのフレドホルム行列式がもっていた解析性は、半古典近似を経た結果、失われることをみいだした。 (2)複素半古典論を用いることにより、カオスを示す非可積分系のトンネル現象を調べた。古典極限でカオスを内在する系のトンネル現象は、複数のトンネル経路をもって記述されることを見い出し、これまで知られている1次元、あるいは可積分系のトンネル現象とは本質的に異なる、新しい種類のトンネル現象を"カオス的トンネル現象"と名付け、その詳しい発生機構を明らかにした。
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