新しいミュオン触媒核融合サイクルについての計算を行うため以下の課題に取り組んだ。 (1)ミュオン分子イオンddμ、dtμの準安定状態ddμ^●、dtμ^●のエネルギー準位の計算。 n=2しきい値以下の準安定状態のエネルギー準位の計算をスケーリング法を用いて計算した。また、同じエキゾチック原子・分子である反陽子ヘリウム原子三体系の準安定状態のエネルギー準位の計算を行った。相対性理論、QEDの補正まで含む計算結果は、精密なレーザー共鳴実験の遷移波長と有効数字6桁(エネルギー準位では8桁)の精度で一致した。この手法を使いミュオン分子のエネルギー準位に対して相対性理論、QEDの補正を加えた。ミュオン分子の場合真空偏極による効果の寄与がもっとも大きく、このためStark混合により(純粋クーロン力の場合)無限個ある準安定状態の数が有限個(例えばJ=0で11個)になった。これは、真空偏極により2s2p軌道の縮退が解けるためである。 (2)周囲の電子によるミュオン分子イオンのエネルギー準位の補正項の計算。 ミュオン触媒核融合サイクルにおいては、ミュオン分子は重水素分子D_2中のdがddμまたはdtμに置き変わった分子内ミュオン分子(ddμ-d)eeまたは(ddμ-d)eeとして生成する。ミュオン分子生成反応は共鳴反応であるためエネルギー準位の計算はmeVの精度が必要である。ddμに対して2次の摂動計算を行った。計算結果は2meVとなり、これはミュオン触媒核融合率を計算するうえで無視できない値であった。この補正は従来小さいとして無視されてきたため今回の結果は重大な意味を持つ。 (3)ミュオン分子のAuger遷移による脱励起率の計算。 生成したミュオン分子は、脱励起したのち分子内核融合反応を起こす。今回は(2)で計算した行列要素を使い、Auger遷移率の計算を行う。これは現在進行中である。
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