本年度はまず、銀河ペアの特異相対速度場の統計分布の研究を行った。標準的なコールドダ-クマタ-モデルの揺らぎのスペクトルを仮定し、ガウス分布から出発してラグランジ的摂動論で統計分布を解析したところ、密度揺らぎの成長とともに観測や数値シミュレーションの結果と一致する、指数関数的分布が得られることを見いだした。これまでこの指数関数分布については、銀河ペアの間隔がごく小さい場合には、強非線型効果による現象論的な説明が与えられていたが、間隔が大きい準非線型領域においてなぜこのような非ガウス的な分布が実現するかは謎のままであった。本研究はその問題を解決したという大きな意義を持つ。 次に、特異速度の分散に関するサンプルバリアンスの研究を行った。N体シミュレーションも実際の観測も有限の領域の中で行われるが、特異速度はより大きなスケールに構造にも大きく左右されるため、十分大きな領域で観測または数値実験を行わないと宇宙全体での平均値を再現することができない。本研究では、一定の奥行きを持つ観測領域をとったときに、その領域から得られる特異速度の観測値が理論的に期待される宇宙全体での平均値からどの程度ずれるかを、線型理論を用いて定量的に評価した。その結果、現在得られている程度の特異速度の観測データでは宇宙論的パラメタの正確な値は得られないことを示した。 このほか、宇宙初期の相転移で生成したボイドが宇宙背景輻射の揺らぎに与える影響を、エネルギーのズレ、重力レンズ効果の双方を勘案して計算した。また有限温度の場の理論を用いてスカラー場の統計分布を計算した。
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