本研究はストレージリング中を周回する電子ビーム及びそれを用いた自由電子レーザー(FEL)のコンプトン散乱によって大強度の単色ガンマー線を安定に発生させ、実際の利用に向けることを目的としている。本年度は当初の予定どおり、ガンマー線ビーム生成のためにストレージリング及びFELを最適化する研究を主におこなった。まず、長時間大強度のガンマー線ビームをコンプトン散乱で発生させるとき問題として、電子ビームがストレージリングから失われてしまい、それによりガンマー線ビームの強度が弱くなることが予想されていた。そこでFEL発振をさせながらブ-スターシンクロトロンからのビームを入射し、失われた電子ビームを補う実験をおこなった。この方法によってFEL発振が約6%ほど停止するがコンプトン散乱で失われた電子ビームを十分補えることがわかった。さらに、FELをより安定に発振させる新しい方法としてストレージリングを負モーメンタムコンパクションファクター(α)で動作させる実験をおこなった。この実験によって負αでストレージリング動作させるとで、通常行われている正のαの動作と比べて電子ビームのバンチ長が短くなりことがわかった。そのことでFEL増幅率が大きくなり、より安定な発振が予想される。これらの研究成果は北京の自由電子レーザーの国際会議、およびSpring8での加速器科学の会議で発表された。また、大強度ガンマー線ビームの実際の利用に向けた研究も進行中である。最も興味深いガンマー線ビームの利用として癌治療があげられ、具体的にはガンマー線による照射及びそれによる中性子を生成し、それを癌患部に吸収させるという多段階にわたる方法を考えている。そのために来年度にはガンマー線ビームによって中性子線を発生させる実験を行う予定で、そのために必要なリチウム6、及びリチウム7を含むガラスシンチレータからなる測定器を購入し、調整を行った。
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