研究概要 |
本研究では,過去40年にわたって北太平洋で観測された海面水温(SST)データに見られる周期7年以上の長周期変動の再検証を試みた.その結果,冬季に現われるSST長周期変動が亜寒帯・亜熱帯の2つの海洋フロント域に集中する新事実を発見した.次に,北太平洋の変動に限って経験直交関数(EOF)解析を施した結果,これら両フロント域の変動相互間の同時相関が極めて弱いこと,更に熱帯の変動と同時相関が強いのは亜熱帯循環系の変動に限られ,亜寒帯循環系の変動は熱帯の変動と同時相関が殆ど見られないという興味深い新事実が得られた.しかも,1970年代中期には,熱帯太平洋で低温傾向から高温傾向に遷移した2〜3年前に,既に北太平洋亜寒帯フロント域の寒冷化が始まっていた事実が確認された.これらの結果を総合すると,熱帯太平洋のSST変動に因って励起された大気循環偏差の影響で,北太平洋のほぼ全域で一斉にSSTが変化するという従来の解釈は正しくないことがわかる.亜寒帯循環系の長期変動が,その海域独自の大気海洋相互作用を通じて,熱帯とは無関係に駆動されるという新しい仮説が得られた. 亜寒帯フロント域のSST偏差は,海上のアリューシャン低気圧の強弱に関係し,それは北太平洋の広い範囲に偏西風強度の変化をもたらす.この変動は上空にPNAパターンを伴う.亜熱帯フロント域のSST偏差は,海上の亜熱帯高気圧の動と関係し,強い偏差は東太平洋上に限られ,上空には双極子状の循環偏差を伴う.これら上空の循環偏差に,研究代表者らが新たに定式化した3次元流中の定常ロスピー波束の活動度フラックスを適用した.亜熱帯フロント上空では低緯から伝播して来る波束が強められ,更にアラスカ上空へと伝播するのに対し,亜寒帯フロント上空では,そこで生じた波束が北東・南東両方向へ発散しており,中緯度での大気海洋相互作用を通じた偏差の励起が強く示唆される.
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