研究概要 |
本研究の目的は、数千年〜数十万年スケールの変動において重要と考えられる物質輸送プロセスを考慮した炭素循環モデルを開発し、氷期・間氷期サイクルにおける炭素循環システムの変動と気候変動との関係を明らかにすることである。 初年度においては、過去十数万年間における二酸化炭素濃度の変動データ(氷床コアの分析にもとづく)と、浮遊性及び底生有孔虫に記録された海洋表層水と深層水の炭素同位体比の時系列データを制約条件として、氷期・間氷期における物質フラックスと海洋循環強度の時間的変動の推定を行った。まず、海洋を鉛直にN(N=10-20)個の層に分割する。全炭酸およびアルカリ度(簡単のためカルシウムイオンのみを考慮)は、湧昇流と拡散及び生物源粒子(有機炭素、炭酸塩)の生産・沈降・溶解によって各層間を移動し、二酸化炭素は表層で大気と溶解平衡にあるものと仮定する。海洋循環は、現在と同じ循環パターンを仮定し、その速度(=海洋の混合率)を予報変数として扱う。海洋における有機炭素及び炭酸塩の正味の埋没率変化の推定には,炭素同位体質量バランスモデルを適用する。 同位体記録は、大西洋赤道域と太平洋赤道域におけるものを用いた。どちらの場合も、間氷期と比べて氷期には生物生産性(海底堆積物中への有機炭素と炭酸塩の埋没率)も海洋混合速度も減少するという結果が得られた。氷期には、海洋混合速度の低下によって、海水中の溶在全炭酸量がわずかに増加した結果、大気中の二酸化炭素は減少していたと推定される。ただし、古海洋学的研究によれば、過去において海洋循環パターンが変化したらしいこと、地域的には氷期最盛期において生物生産性が増加したらしいことが知られている。次年度は、これらのファクターを考慮したモデルを開発し、古海洋学的研究との矛盾・調和に関するより現実的な議論を行う予定である。
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