本研究は、日本南岸の沿岸域の海況に大きな影響を及ぼす黒潮の流量や流軸位置の変動のうち、特に外洋域の中規模渦によって生じるものを対象としている。昨年度は人工衛星海面高度計のデータとトカラ海峡における潮位計記録を使い、トカラ海峡の流量変動が、台湾の東方で中規模渦が黒潮に接近・合体して移流される一連の現象と強い相関を持つことを示し、これらの現象は日本南方海域の海面高度のCEOF解析第2モードとして記述されることを調べた。今年度はトカラ海峡の下流域にあたる足摺岬沖の黒潮観測線(ASUKA測線)での黒潮流量のデータを加えて解析したところ、トカラ海峡で見られた流量の変動が足摺沖でもおよそ1〜2ケ月の遅れでほぼ観測された。より定量的に議論するためにこれらの変動をCEOFの各モードで分解すると、予想通り第2モードが50%以上の寄与率を占めており、前述した一連の現象が台湾東方から四国沖に達する長い距離にわたって影響を持つことがわかった。ただしASUKA測線ではトカラ海峡よりも第2モードの寄与率が小さく、中規模渦と黒潮の九州東方での局所的な作用を示す第4や第6モードなどの寄与率が相対的に上昇していた。一方、豊後水道の表面水温の変動をCEOF解析のモードで分解した場合、年周期である第1モードが卓越するが、他に第2モードと第6モードにも有意な寄与率が見られた。これより豊後水道の変動は、台湾東方の遠方からの変動と、すぐ近傍の九州東方での変動の両方の影響を受けていることがわかった。なお、トカラ海峡での黒潮流軸の変動は、高次モードである第8モードの寄与率が卓越していた。このモードは日本南方海域全体としては寄与率が低いが、東シナ海〜トカラ海峡の局所的海域では支配的なモードで、不安定などによる黒潮流軸の蛇行を示していると考えられる。なお、このモードは豊後水道の水温変化とは直接的な関係はなかった。
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