本年度は2次元潮流モデルの構築を中心に行った。湾口で周期的な水位変動を与えた際の湾内の応答を調べるモデルで、湾口の振る舞いが肝要であり、また低潮時には一部干出することから、湾口での開境界条件と間潮帯を扱う手法については特に注意をはらった。そして鉛直拡散以外は3次元へ拡張を念頭に入れたスキームになっている。このモデルを現在の東京湾に適用し、湾内のM2潮位、潮流を観測値と比較して両者が非常に良く合うことを確認した。さらに東京湾を対象に予備実験をいくつか試みた。実験では当時の海水準は現在より2m高く、海岸線は現在の標高7mの等高線にほぼ対応し、縄文海進後の堆積層の厚みが7mであったと仮定した。最初に海岸線は現在のままで水深だけ2m増やした場合の潮汐を調べたところ、湾奥の大潮平均高潮面(以下潮位と呼ぶ)がわずかに減少した。これは一次元の定在波理論から予想される結果であり、現在の東京湾のように固有周期が半日よりかなり短く、定在波的な性質が強い内湾では、海面水位の上昇自体は潮汐を弱める方向に働くことが確認できた。次の実験では、当時の海水準で、現在の陸地の標高を堆積層分下げた地形で実験を行った。その場合の湾奥の潮位は1.7mで現在の東京湾に比べ0.5m高いのに対し、湾口では現在と大差ないことがわかった。一方湾口の潮流は現在のM2成分0.3m/sに比べ0.8m/sと非常に強かったことがわかった。湾奥での潮位の増大は主に半日周潮の強化によるところが大きい。日周潮と半日周潮の振幅の比をとると、湾口では79%、現在の湾奥で63%であるのに対し、この実験の場合の湾奥では43%であり、潮汐がより半日周期的な性質を示すことがわかった。さらに本実験で想定したような複雑な地形では、単純な定在波理論だけで潮位の変化を説明することができず、本研究のような数値的な手法による解明が必要となることが明らかになった。
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