研究概要 |
本年度は,殻形成に関与していると考えられる殻内タンパク質について以下の研究を行った. (1)殻内タンパク質(MSP-1)の一次構造決定:MSP-1はホタテガイ殻体に含まれる水溶性タンパク質である.洗浄粉砕したホタテガイ殻体の外層(葉状構造のカルサイト)をEDTA水溶液によって脱灰し,脱塩濃縮した抽出物をSDS-PAGEで展開することによりMSP-1を精製し,N末端のアミノ酸配列をまず決定した.得られた配列を基にプライマーを設計し,ホタテガイの外套膜より抽出した全RNAから合成したcDNAを鋳型として,PCR法によりMSP-1をコードするcDNAを増幅し,クローン化した.得られたクローンのDNA塩基配列を決定することにより,MSP-1のアミノ酸全一次配列を得た.その結果,MSP-1は既知のいずれのタンパク質とも明らかな相同性がないこと,カルシウムイオンとの相互作用で重要とされるアスパラギン酸が従来の予想と異なる配置をしていること,特徴的な繰り返し配列を持つことなどが明らかとなった. (2)殻内タンパク質の殻体における空間的配置:硬組織内における鉱物相と有機物の位置関係,特に従来その存在が知られながら,その存在様式が不明であった結晶内タンパク質の結晶中での空間的配置を明らかにするために,現生腕足動物ホオズキチョウチンガイの殻体切片の走査電顕・透過電顕による観察,および抗-結晶内タンパク質抗体を用いた免疫組織化学的観察を行った.その結果,二次層を構成する繊維状結晶は,その一つ一つが単結晶であり,それぞれが有機質(結晶間タンパク質)の薄層を境界にして規則的に配列していることが確認された.また,免疫組織化学的観察および透過電顕による観察から,結晶内タンパク質は,結晶間タンパク質の薄層の片側表面付近に存在すること,そしておそらく結晶成長の阻害という機能を持つことが示唆された.
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