研究概要 |
現生のオウムガイ類は、アンモナイトと同様の気室連室細管系をもつことから、古くからアンモナイトの古生態の推定に参考にされてきた。近年の研究では、オウムガイ類は1から2日ごとに海中を垂直に移動していることが明らかにされている。本年度は、微量元素や酸素同位体比分析によるアンモナイトの古生態学的研究の前段階として、現生オウムガイ殻中の微量元素分析を行い、生態との関係について検討した。 測定に用いた試料は、フィリピン、パンラオ島付近の水深200から300mで採集されたオウムガイ(Nautilus pompilius)で、34番目の殻壁について、偏光ゼーマン原子吸光分光光度計とEPMAにより、2μごとにCa,Sr,Mgを測定した。このうち、前者の方法では、隔壁形成初期の100μについてだけ、後者の方法では、全隔壁1500μについて分析を行った。 測定の結果、全隔壁1500μ中に約50回のStの周期的な変動が認められた。Stの存在量は、水温と強い相関があることが知られているため、今回確認されたStの周期的な変動は、オウムガイの日周的な垂直移動に起因するものと考えられる。この考えの下で、隔壁の形成期間を推定すると、少なくとも50日以上となり、これまでのオウムガイの隔壁形成期間に関する様々な研究(重量変化の周期性、エックス線観察、放射性元素、酸素同位体比)結果と矛盾しない。現在、温度一定条件下で飼育されたオウムガイについても、同様に分析を行い、Stの周期的な変動について、さらに検討を行っている。 また、北海道での地質調査の結果、北海道北部から産出する白亜紀アンモナイトが、保存状態の点で、本研究に適することがわかった。
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