本年度においては、二種類のソリューションを用いて水熱合成実験を行い、得られた生成物を観察、分析した。実験は、アエンデ隕石の小片を1規定塩酸または純水とともに金チューブに封入し、オートクレーブで450℃、800気圧のもとに約2か月間おいたものである。走査型電子顕微鏡、電子線マイクロプローブおよび分析透過型電子顕微鏡での分析の結果、いずれの場合も初生鉱物の一部が層状珪酸塩をはじめとする二次生成鉱物に交代され、著しい変成組織が観察された。生じた層状珪酸塩や変成組織は、実際に水質変成を受けたとされているアエンデと同タイプの隕石試料に見られるものに類似している。また、異なるソリューションを用いることにより、隕石に含まれる各鉱物の変成の程度、二次生成物の種類に違いがあることも明らかになった。特に、カルシウムを含む鉱物(輝石、斜長石など)の挙動で大きな差が見られた。得られた知見は近く学会(国立極地研究南極隕石シンポジウム)で発表する予定である。ただし、今回の実験条件は隕石母天体上で予想されるものとかなり異なるため、今後はより実際に近い、低温、低圧のもとで、ソリューションと岩石の量比を変えて実験を行いたい。 上記の実験と平行して隕石試料の分析も続けてきたが、母天体上での堆積作用の痕跡と見られる組織を持つものを発見したことから、共著で国際誌に投稿し、現在印刷中である。このような試料の存在は、始原的な小天体に予想されている以上の量の水が存在し、その物質進化に大きな役割を果たしていたことを示唆するものである。
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