地球中心核には鉄ニッケル合金の他に酸素・硫黄などの軽元素が約10重量%含まれていると考えられている。鉄一軽元素系融体の密度・粘性・電気伝導度などの物性は、核のダイナミクスや地球形成初期の核マントル分離過程などを明らかにする上で必要不可欠な情報である。これらの物性は温度圧力の関数であるとともに、化学結合性・結晶構造と密接な関連がある。このように鉄一軽元素系融体の構造の研究は物性研究の基本となる。本研究では放射光を用いた高温高圧X線回折実験から高圧下におけるFe-FeS系融体の静的構造を調べ、融体の構造と圧力・組成の関係を明らかにすることを目指している。 X線回折実験は高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所(PF)に設置された高圧X線回折装置MAX90を用いてエネルギー分散法で行った。昨年度FeS融体の構造の圧力変化に関する研究を行い、5GPaまでの圧力下でFeS融体の構造に大きな変化が見られないことを報告した。今年度はFe-FeS2成分系において、融体の構造と組成の関係について研究を進めた。圧力を3GPaに固定し、Fe-FeS系の共融組成を挟んで、Fe側とFeS側の数点の組成の融体に対するX線回折実験を行った。実験データから動径分布関数を求め、融体の近接構造に関する情報を導いた。その結果、Fe-FeS系の融体では共融組成の両側で大きく構造が変化することが確認された。すなわち、共融組成よりFe側ではS濃度の増加にともない第1近接のFe原子の数が減少していくものの純鉄に類似した構造を保持しているのに対し、共融組成よりFeS側では第1近接原子は異種原子であり、ほとんどFeSと同様の構造をとっている。このように、放射光を用いた高圧X線回折法による融体構造の研究は極めて有効であり、鉄一軽元素系の融体物性研究の有力な手段である。
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