この研究の目的は、珪酸塩メルトへの水の溶解度と水(メルト相)と水(気相)のモル体積差を噴火前のマグマに相当する温度圧力条件で実験により決定し、メルトからの水(気相)の析出(発泡)にともなう系の体積変化の様子をモデル化することにある。9年度の研究では、流紋岩メルトへの水の溶解度を850-1200℃、22-100MPaの温度圧力条件で溶融実験により決定した。無水流紋岩ガラスを水とともにカプセルに封入して内熱式ガス圧装置で溶融させ、水を流紋岩メルト塊へ拡散浸透させた後、急冷ガラス化させて回収した。水の溶解度はガラス生成物中の溶存水を顕微赤外分光で定量することにより決定した。さらに溶解度データを適当な平衡条件式に回帰させ、流紋岩メルトへの水の溶解度の温度圧力依存性をモデル化した。モデルは今回の実験結果および現在までに公表されている流紋岩メルトへの水の溶解度データを、ソリダス近傍の700℃からリキダスをこえる1200℃にいたる広い温度範囲で再現する。珪酸塩メルトへの水の溶解度が圧力の低下とともに減少することはよく知られているが、温度の効果については実験データの不足のため真剣に検討されたことがなかった。この研究で新たに見い出されたことは、流紋岩メルトへの水の溶解度が顕著な温度依存性をもつことである。100MPa(深さ約3km)の圧力で温度が700℃から1200℃まで上昇すれば溶解度は4.6wt%から3.3wt%まで減少するが、これは流紋岩メルトが1km上昇して減圧されることによる溶解度の減少分に匹敵する。今回の結果は、浅所にある偏平な流紋岩マグマだまりに下方から熱が効果的に供給される(例えば新たに上昇してきた玄武岩マグマがunderplatingする)場合、流紋岩マグマだまり底部の熱境界層で「その場発泡」がおき、発泡領域は対流による熱輸送で急速にマグマだまり全体に波及する可能性を示している。
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